月曜日、憂鬱な午後
週明けの月曜日。
会社で小さなミスをしてしまい、気分が沈んでいる由美。
休憩時間にSNSを開くと、週末に旅行を楽しんだ友人、昇進して活躍している同期、素敵なランチの写真など、キラキラした投稿ばかりが目につく。
自分の地味な日常と比べてしまい、
「自分は何をやっているんだろう…」
という焦燥感と自己嫌悪に囚われる。
SNSを閉じるが、毎回モヤモヤと心にわだかまりが残ってしまう。
仕事帰り、いきつけのGURI COFFEEに立ち寄る。
ここは由美にとって、日常から少し離れてホッとできる大切な場所。
店内に漂うコーヒーの香りと落ち着いた和を基調とした雰囲気に、少しだけ心が和む。
いつものカウンター席に座る。
そしていつものようにマスターが、
「こんにちは、由美さん。今日はどうしますか?」
と声をかけてくれる。
由美はメニューを眺めていたが、どうも顔色が優れないことにマスターが気づく。
GURI COFFEEへの逃避行
「何か、お疲れのようですね?」 と優しく尋ねられる。
「いえ、大したことないです」 と誤魔化そうとするが、マスターの穏やかな雰囲気に促され、最近のSNS疲れや、周りと比べてしまう自分への嫌悪感をぽつぽつと話し始める。
「みんな、すごく楽しそうで、成功していて…それに比べて私は仕事も失敗しちゃうし……」 と本音をこぼす。
マスターは由美の話を静かに聞く。
相槌を打つ程度で、安易な励ましはしない。
由美が話し終えると、マスターからの提案が。
「なるほど。もしよかったら、今日はこのコーヒーを飲んでみませんか?」
そう言って、褐色に焙煎されたコーヒー豆が散らばったお皿を由美に差し出された。
「これはブラジルサントスNo.2といってブラジルの豆で最もポピュラーなんです」
そういうとマスターは手挽きミルの最高峰「コマンダンテ」を手にし、カリカリと何とも言えないBGMを奏で始めた。
「このコーヒーは、派手さはないのですが、じっくり味わうと色々な香りが隠れているんです。そしてなによりブレンドのベースに使われることが多いのです」
ゆっくりと抽出されたコーヒーを由美の座るカウンターに差し出された。
今日という日を、一杯のコーヒーで締めくくる
由美はマスターが淹れてくれたコーヒーを受け取り、一口飲む。
口の中に広がる温かさと香りに、張り詰めていた心がフッと緩んだ。
マスターの「じっくり味わうと色々な香りが隠れている」という言葉を心に留めながら、コーヒーをもう一度口にした。
SNSで見るのは、みんなの人生の「一番分かりやすい香り」の部分だけなのかもしれない。
自分自身の人生にも普段は見過ごしているけれど、じっくり味わえば見つかる「隠れた香り」があるのかもしれない……
この一杯のコーヒーのように、自分のペースで、自分の日常の中にある小さな良いものに目を向けてみよう。
そんな気持ちが芽生える。
コーヒーを飲み終え、由美の顔に少しだけ穏やかな表情が戻る。
「ありがとうございます。このコーヒー、とても美味しいです。なんだか、少し楽になりました」
大きな問題が解決したわけではないが、GURI COFFEEで過ごした時間と一杯のコーヒーが、SNSで疲弊した心を癒し、自分自身の日常に目を向けるきっかけを与えてくれた。
店を出る由美の足取りは、来店時より少しだけ軽い。
ポケットの中のスマホが気になるが、開かずにそのままにする。