自宅という曖昧な空間
いつものように決まった部屋の決められた場所にあるパソコンに目を向けながら、フゥッとためいきをつく絵美。
社内方針で在宅ワークが当たり前となって2年。
はじめは好きなことをしながら作業ができると歓喜していた絵美だったが、慣れてくれば仕事とプライベートの境界線がない日々にストレスを感じている。
「また同じ日々の繰り返し……なんか面白くないなぁ」
変化のない毎日が絵美にとって一番の悩みである。
「いつものとこ行こっか」
友人に紹介してもらい、常連となった近くのコーヒーショップGURI COFFEEの扉を開ける。
「いらっしゃいませ、絵美さん」
扉を開けると、焙煎されたコーヒー豆の燻る香りが鼻を通り抜ける。
マスターとの会話、こぼれた本音
「マスター聞いてよ!最近面白くないの」
「絵美さん、急にどうしたのですか?」
マスターは唐突に相談してくる絵美に微笑みながらも、話に耳を傾ける。
どうやらON/OFFのスイッチが切り替えられなくて、困っている様子。
「なるほど、在宅ワークあるあるですね。たまに他のお客様も同じようなことをおっしゃるあります」
ここでマスターから提案をする。
「いちコーヒー屋からの提案をしてみましょうか」
香りが提案する新しい習慣
「なになに?気になる!」
絵美は興味津々にカウンターの上に両肘を乗せ顔を近づける。
「今日から2種類のコーヒーを飲んでみましょう」
どういうことかわからない絵美は怪訝な顔をして、マスターに尋ねた。
「なんで2種類なの?私の好きな深煎りだけじゃダメなの?」
マスターは2種類のコーヒー豆を準備し始めた。
「左手の豆は浅煎りのキリマンジャロ、右手の豆は深煎りのグアテマラです」
コーヒーは焙煎度や種類によってカフェイン量が違うことを説明し始めたマスター。
「なるほどね!じゃあ仕事に集中するぞ!ってときは、浅煎りのコーヒーを飲むとスイッチが入るのね」
「入りやすいかと。反対に深煎りのコーヒーはカフェイン量が少ないので、夕方など少し休みたいときに飲まれると心が落ち着くかもしれませんよ」
マスターが淹れた2種類のコーヒーを飲み比べながら、楽しい時間を過ごした絵美。
一杯の希望とともに
「今日はありがとうマスター!帰ったら、この浅煎りのキリマンジャロを淹れてみるわ……!」
お店で買ったGURI BLEND-きわみ-とキリマンジャロを手にした絵美は、満足げにお店を後にした。
種類の違うコーヒーを生活に取り入れることで、曖昧だったON/OFFの境界線が香りとともに作れるかもしれない。
足取りは軽く、明日からのリモートワークが今までよりもずっとクリアに見える気がした。